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睡眠は人生の約 1/3 を占めます。その睡眠には、疲労回復・損傷修復といった、脳や身体の
機能を正常に維持する役割があることがわかっています。さらに近年の研究で、睡眠の長さ
や質によって代謝効率や病気のなりやすさが変わり、寿命にも関連していることが明らか
になってきました。そこで今回は、睡眠にまつわる7つの豆知識(トリビア)について紹介
したいと思います。
トリビア① なぜ人は眠くなるのか?
眠気を引き起こす主な要因は、「睡眠物質の蓄積」と「体内時計のリズム」の2つです。ま
ず「睡眠物質」とは、覚醒中に脳内に蓄積されていく物質で、その代表的なものがアデノシ
ンです。アデノシンは、活動中の脳がエネルギー(ATP)を使う過程で生まれ、これが一定
以上に蓄積されると、脳に「眠る必要がある」という信号を送ります。イメージとしては、
鹿おどしに水が溜まり、満杯になると一気に傾いて落ちるような仕組みです。睡眠によって
アデノシンは分解・減少し、また一から溜まり始めます。
一方、体内時計(概日リズム)は、約 24 時間周期で睡眠・覚醒のリズムを司るしくみです。
このリズムに従って、日中は覚醒を促し、夜になると眠気を誘うホルモン(メラトニンなど)
が分泌されるようになっています。例えば、徹夜明けの朝、異様に頭が冴えているように感
じた経験はありませんか?これは、体内時計が「朝だから起きる時間」と判断し、アデノシ
ンが溜まっているにも関わらず覚醒を促しているためです。
つまり眠気は、「眠るべき時間かどうか」と「どれだけ長く起きていたか」という2つの軸
で決まる複雑なメカニズムなのです。
トリビア② 眠くなると手足が温かくなる理由
夜になると、手足がポカポカと温かく感じることがあります。これは、眠りに入る準備とし
て体が自然に行う体温調節機能のひとつです。睡眠が始まる前には皮膚表面の血流が増加
し、体の中心(深部)から熱を放散しようとします。この働きにより深部体温が下がり、代
謝活動がゆるやかになって全身が休息状態へと移行します。
実際、睡眠導入は深部体温が低下し始めるタイミングで最も起こりやすいことが分かって
います。反対に、体温が高い状態では寝つきが悪くなります。冷え性の人が寝つきにくいの
も、血流が悪く皮膚表面の温度が上がらず、うまく深部体温が下げられないためです。また、
夏の暑い夜に眠りが浅くなるのは、外気温が高くて体の熱が逃げにくく、放熱がうまく行わ
れないためです。
理想的な入眠のためには、就寝の 90 分ほど前にぬるめの入浴(38〜40°C)をすることが効
果的です。血流が促進され体温が一時的に上がり、その後の自然な放熱によって深部体温が
下がりやすくなり、スムーズな入眠につながります。
トリビア③ 「休息」と「睡眠」は同じじゃない?
「寝転がっていれば休息になる」と思われがちですが、実は「休息」と「睡眠」は異なる状
態です。「休息」はあくまでも身体を動かさずにリラックスする時間で、脳は覚醒したまま
です。一方「睡眠」は、脳そのものが休息する特別な状態です。
この違いは「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」にも表れています。レム睡眠では体は休んでい
るものの、脳波は起きているときに近く、夢を見ることが多い状態です。ノンレム睡眠では
脳も完全に休んでおり、特に深いノンレム睡眠では身体の修復や成長ホルモンの分泌が活
発に行われます。
つまり、体の疲れは「休息」でも取れますが、脳の疲れは「睡眠」でしか取れないのです。
どんなにゆったり過ごしていても、睡眠不足が続けば脳の働きは鈍り、心身ともにパフォー
マンスが低下してしまいます。
トリビア④ いびきは放っておいていいの?
「疲れているからいびきをかいている」と軽視しがちですが、いびきは体からの重要な SOS
信号である可能性があります。いびきは、口や喉の空気の通り道(上気道)が狭くなること
で起こります。
特に問題なのが「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と呼ばれる状態です。これは睡眠中
に何度も呼吸が止まるか、極端に浅くなり、脳や体に酸素が十分に行き渡らない深刻な睡眠
障害です。
このような状態が続くと、十分な睡眠がとれていないにもかかわらず、自分では気づかない
うちに日中の強い眠気や集中力の低下が起こります。運転中や作業中に突然意識が落ちる
ような“マイクロスリープ(瞬間的睡眠)”が事故につながるケースも多数報告されています。
周囲から「呼吸が止まっている」「大きないびきをかいている」と言われたことがある方は、
放置せず専門医の診断を受けることが望ましいです。
トリビア⑤年を取ると眠りが浅くなるのはなぜ?
日本人の約 5 人に 1 人が「自分は不眠気味」と感じているという調査結果があります。特
に高齢者の多くが、「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」などの悩みを抱
えています。これは加齢に伴い、体内時計のリズムが前進し、睡眠が浅く短くなるためです。
若い頃と比べて、成長ホルモンやメラトニンなどの睡眠に関わるホルモンの分泌も減少し、
睡眠の質が低下します。
さらに、加齢以外にもストレス、薬の副作用、痛みなど複数の要因が重なって不眠症を引き
起こすこともあります。不眠の主なタイプには以下のようなものがあります。
• 入眠障害(寝つきに時間がかかる)
• 中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
• 早朝覚醒(朝早く目が覚めてしまう)
• 熟眠障害(寝ても眠った感じがしない)
不眠に悩んでいる場合、安易に睡眠薬に頼るのではなく、生活リズムの見直しや病気の検査
(睡眠時無呼吸症候群など)を行うことが勧められます。
トリビア6 コーヒーを飲むと眠れなくなるのはなぜ?
「夜にコーヒーを飲むと眠れなくなる」とよく言われますが、その原因はカフェインにあり
ます。カフェインは脳内で眠気を引き起こすアデノシンという物質の働きをブロックする
ことで、覚醒状態を保ちます。アデノシンは起きている時間が長くなると蓄積され、眠気を
強める役割を果たします。カフェインはその受容体に先回りして結合し、アデノシンが働け
ないようにするため、眠気が起こりにくくなるのです。
ただし、カフェインの効果には個人差があります。それは、カフェインの代謝が主に肝臓で
行われ、そのスピードが遺伝的要因によって異なるためです。この代謝に関わるのが
「CYP1A2」という酵素で、この遺伝子の活性が高い人はカフェインをすばやく分解できま
すが、活性が低い人は体内に長時間カフェインが残り、夜になっても覚醒状態が続いてしま
います。
カフェインの半減期(体内での量が半分になる時間)は平均 4〜6 時間とされますが、これ
はあくまで目安で、人によってはもっと長引く場合もあります。つまり、午後に飲んだ一杯
のコーヒーが、夜の眠りに悪影響を与えている可能性もあるのです。カフェインに敏感な方
は、夕方以降はカフェイン飲料を控えるといった工夫が効果的です。
なお、カフェインはコーヒーだけでなく、緑茶・紅茶・エナジードリンク・チョコレートな
どにも含まれているため、意外な摂取源にも注意が必要です。
トリビア7 「寝る子は育つ」は本当?
「寝る子は育つ」という言葉は、実は科学的にも根拠のある表現です。睡眠中、特に深いノ
ンレム睡眠の時に大量に分泌されるのが「成長ホルモン」です。このホルモンは子どもの身
体的成長を促進するだけでなく、大人でも細胞の修復や新陳代謝の活性化、免疫機能の維持
などに重要な役割を果たしています。
また、子どもの場合、睡眠と脳の発達は密接に関わっています。新生児は 1 日 16〜20 時間
もの睡眠をとりますが、それは脳の成長と神経ネットワークの形成に睡眠が不可欠である
ためです。生後 3〜4 ヶ月になると昼夜の区別がつきはじめ、睡眠リズムが整い始めます。
このように、成長期には良質な睡眠が不可欠であり、十分な睡眠をとることで学習能力や記
憶力、感情のコントロールの発達にも良い影響を与えることが分かっています。逆に、睡眠
不足が続くと成長ホルモンの分泌が減少し、疲労回復が遅れるばかりか、肥満や集中力の低
下、精神的な不安定さにもつながる可能性があります。
子どもだけでなく大人にとっても、「しっかり眠る」ことが健康や生活の質を高める基本で
あることを、あらためて認識する必要があるでしょう。
おわりに:よりよい眠りは、よりよい毎日につながる
「睡眠」は単なる休息ではなく、心と体の健康を保ち、日々のパフォーマンスを最大化する
ための基盤です。今回ご紹介したように、眠気の仕組みやカフェインの影響、いびきが示す
危険、老化と眠りの関係など、私たちが普段何気なく感じていることにも実は深い科学的背
景があります。
睡眠不足は体調不良だけでなく、心の不調や事故リスク、生活習慣病にも直結します。一方
で、睡眠の質を高めることで、集中力が上がり、気分が安定し、免疫力も強化されることが
多くの研究で明らかになっています。
大切なのは「何時間寝たか」だけでなく、「どんな眠りを取ったか」です。あなたの睡眠が
もっと深く、もっと質の高いものになるよう、まずは自分の眠りを観察し、理解することか
ら始めてみてはいかがでしょうか?
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