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日本の枕の歴史と背景

by schoenberg01 on February 06, 2026

日本の枕の歴史は、単なる寝具の変遷にとどまらず、日本人の生活習慣や美意識、宗教観、そして独自の「髪型文化」と深く結びつきながら発展してきました。

現代の日本では多種多様な枕が存在し、自分に合った枕を選ぶことが難しく感じられる時代でもあります。本コンテンツでは、枕の変遷を 紐解きながら、 現代の暮らしに合った枕選びのヒントをお届けします。

 

1. (古代)黎明期 :魂を繋ぎ止める「聖域」としての枕

睡眠は「一時的な死」であった

古代日本人にとって、睡眠は単なる休息ではありませんでした。魂は眠っている間に体を離れ、他界を彷徨うものだと信じられていたのです。

そのため枕は 、「悪霊の侵入を防ぐ障壁」 や、「抜け出した魂が戻ってくるための目印」 としての役割を担っていました。この時代の枕は、首を休めるための道具ではなく、「魂」や「霊力」を宿す特別な存在だったと考えられています。

 

■ 古墳・弥生時代

古墳時代の遺跡からは、石枕や木枕のような枕状の遺物が発掘されています。

これらは、死者の頭部を支えるためだけでなく、魂の通り道を守るための「護符」のような役割も持っていたとされています。

当時の人々は睡眠を「一時的な死」と捉えていたため、枕には魂が体から抜け出さないよう繋ぎ止める呪術的な意味も込められていました 。

■ 万葉の時代と「草枕」

『万葉集』などの古典文学では、旅を象徴する言葉として「草枕」が頻繁に登場します。

これは旅先で結んだ草を枕にしたことを指しますが、単なる即席の寝具ではなく、旅の無事を祈る呪術的な意味も含まれていました。

■ 飛鳥・奈良時代

仏教の伝来とともに枕の文化も次第に多様化していきます。

正倉院には、聖武天皇が愛用し ていたとされる 「白練綾大枕(しろねりあやのおおまくら)」 が残されています。

これは木綿や草を芯にし、豪華な布で包んだ巨大なクッションのようなものでした。

■ 平安時代

貴族社会では、枕が持つ文化的な意味合いがさらに強まります。

『万葉集』や『古今和歌集』に見られる「枕詞(まくらことば)」は、和歌の冒頭に置かれる言葉ですが、その語源は「枕」にあります。

また、この頃から「草枕」という言葉が旅の代名詞として定着し、旅先で草を束ねて枕にする侘しさが文学的な情緒として描かれるようになりました。

■ 階級による違い

・ 貴族層:複数の枕を重ねたり刺繍を施した布枕を使用 。

・ 庶民層:木を削った枕や 藁(むしろ)を丸めた 硬く簡素なものが主流 。

 

2. 鎌倉から室町時代 :形状の多様化

機能性と冷涼感

武士が台頭する中世になると、寝具にも実用性が求められるようになりま した。

この時代に登場したのが、現代でも日本の枕を代表する素材である 「そば殻(蕎麦殻)」 です。

■ そば殻の利点

適度な硬さが頭部を安定させ、 日本の高温多湿な気候においては、通気性が良く熱を逃がしやすい理想的な素材でした。

■ くくり枕の誕生

布の袋に詰め物をし、両端を紐で縛った「くくり枕」がこの時期に普及しました。詰め物には、通気性の良いそば殻やもみ殻が使われ、 日本の高温多湿な気候に適応させる知恵が定着しました。

■ 陶枕(とうちん)の伝来

中国から伝わった磁器製の枕で、 中が空洞で表面が常にひんやりとしているため、夏の贅沢品として、また医療的な「頭寒足熱」の実践道具として上流階級や禅僧の間で愛用されました 。

■「枕返し」の怪談

寝ている間に枕を動かす妖怪の伝承は、「枕の位置が変わると魂が戻れない」という古代信仰の名残とされています。

 

3. 江戸時代: 髪型の黄金時代

「箱枕」の苦闘

日本の枕の歴史において、最も特徴的でドラマチックな変化が起きたのが江戸時代です。

その背景にあるのは、爆発的に流行した「髷(まげ)」の文化です。

■ 髪型を守るための「箱枕」

江戸時代、男女ともに複雑な髪型を結うようになると、一度結った髪を数日間維持しなければなりませんでした。せっかくの髷を崩さず、油で汚さないために考案されたのが「箱枕(はこまくら)」です。

・ 構造:木箱の上に小さな「くくり枕」を乗せた形。

・ 使い方:頭ではなく「首の付け根」を支える。

これにより、髪型の崩れや油汚れを防ぐことができました。

■ なぜ「箱」である必要があったのか

・ 髪型を崩さない:頭をどっしりと乗せてしまうと、結った髪が潰れてしまう。

・ 油汚れを防ぐ:髪には大量の鬢付け油が塗られていたため、布団を汚さない必要があった。

その解決策として、「頭を乗せるのではなく首を支える」という極端に小さな枕、すなわち箱枕が誕生したのです。

■ 「殿様枕」と健康問題

高い位置で首を支える箱枕は、現代医学の視点では負担が大きいものでした。

「寿命三寸、楽四寸」

「高さが 3 寸(約 9cm)なら長生きし、4 寸(約 12cm)なら髪が崩れず楽だ」という言葉がありました。

しかし、高い枕は首の血管を圧迫しやすく、脳卒中のリスクを高める要因にもなりました。現在では、これを「殿様枕症候群(特発性椎骨動脈解離)」と呼び、江戸時代特有の生活習慣がもたらした健康リスクとして研究されています。

 

4. 近世から近代: 死生観と寝室の作法

北枕と枕飾り

日本の枕には、宗教的な禁忌や生活の作法が深く根付いています。

■ 北枕の由来

「北枕は縁起が悪い」とされるのは、仏教の開祖・釈迦が入滅(死去)した際に、頭を北に向けていた(頭北面西)ことに由来します。日本では、死者を安置する際に北枕にする風習が定着したため、日常生活で北枕を行うことは「死」を連想させる忌むべきこととされてきました。

■ 枕飾りと枕経

故人の枕元に置かれる「枕飾り(簡易的な祭壇)」や亡くなった直後に唱える「枕経」など、枕という場所は古くから「現世と来世の境目」と考えられ、宗教的・儀礼的な意味を持つ重要な空間であり続けています。

 

5. 明治から現代:西洋化と安眠の追求 へ

断髪令と枕の革命

明治維新後、1871 年の「断髪令」により男性が髷を切り落としたことは、枕の歴史における最大の転換点となりました。

■ 箱枕の衰退

男性が髷を切りザンギリ頭になると、髪型を守るために苦しい箱枕を使う必要はなくなりました。

■ 女性の変遷

女性はしばらくの間、日本髪を維持していたため箱枕を使い続けていましたが、大正から昭和にかけて洋髪やショートカット(断髪)が普及するにつれ、箱枕は家庭から姿を消し、枕は再び「低く柔らかい」形状へと戻っていきました。

■ 昭和の定番「そば殻枕」

昭和に入ると多くの家庭で使われるようになったのが、幅広の布袋にそば殻をたっぷり詰めた枕です。「枕を高くして寝る」という言葉が安心の象徴とされたように、安定感のある大きな枕が普及しました。適度な硬さと吸湿性、そして手頃な価格であることが日本人の寝室を長く支えてきました。

6. 日本人の精神性と枕

日本の枕の歴史を俯瞰すると、日本人ならではの精神性や価値観が浮かび上がります。

■ 頭寒足熱の知恵

そば殻枕や陶枕に代表されるように、日本では古くから頭部の温度を下げることが重視されてきま
した。体全体のバランスを整えるための生活の知恵と言えるでしょう。


■ 北枕の禁忌
仏教的な死生観を背景に、死を連想させる北枕を避けるという習慣は、現代においても日本人の意識に深く刻まれています。

■ 境界としての枕
夢の世界(他界)と現実を繋ぐ道具としての神秘性は、現代でも「枕元に置くもの(スマホではなくお守りや本)」へのこだわりとして、形を変えて残っているのかもしれません。
枕の役割が、古代の霊的な道具から江戸時代の美しき我慢、そして現代の科学的な安眠へと変遷し、日本人が何を尊び、どのように生きてきたかを映し出す「文化の鏡」そのものなのです。

7. 現代:科学としての睡眠と多様化

21 世紀の現在、枕はもはや単なる「頭を置く道具」ではなく、睡眠の質を左右する精密機器のようなものとして位置づけられるようになっています。

■ パーソナライズの時代

現代の背景には「睡眠負債」という社会問題があります。これに対応するかたちで後頭部や首のカーブを測定し、一人ひとりの骨格に合わせて作る「オーダーメイド枕」が一般化しました。

枕の歴史は「文化(髪型)に合わせる時代」から「個人の生理(骨格)に合わせる時代」へと移行したと言えます。

■ 現代の多様化

1990 年代以降、低反発ウレタンや高反発ファイバー、羽毛など、枕に用いられる素材は飛躍的に増えました。かつての「髪型を守るための道具」から、「睡眠の質(リカバリー)を高めるための科学的な道具」へと進化を遂げています。

■ 現代における「枕」の再定義

現代医学や睡眠科学の発展により、その定義は「立っている時と同じ自然な頸椎(首)のカーブを横になった状態でも維持するための支持器具」へと変化しました。

「スマホ首(ストレートネック)」や慢性的な肩こりの増加は、枕の役割をより重要なものへと押し上げています。枕は今や、日中のデジタルデバイス使用によって疲弊した頸椎を整えるための「リカバリーツール」としての意味を持つようになりました。

■ 多様化する現代の枕

現代の枕は、素材の選択のみならず、「体温調節」や「衛生面」といった機能面にまで広がっています。

ここでは、一般的にどのような種類の枕があるのか見ていきましょう。

高機能ウレタン(低反発・高反発)

体圧分散性に優れ、頭部や首の形状にフィットしやすい素材。

オーダーメイドに近い寝心地を得られる点が特徴。

三次元状ファイバー

ポリエチレン樹脂を立体的に編み込んだ素材。

圧倒的な通気性を備え、「丸洗いできる」という清潔志向のニーズに応える。

TPE(熱可塑性エラストマー)

ジェルのような弾力を持ち、高い耐久性が特徴。

寝返りのしやすさを素材特性から科学的にサポート。

天然素材(羽毛・蕎麦殻)

吸湿性や通気性に優れ、自然素材ならではの安心感を求める層に今なお根強い人気。

■ 形状の進化:寝姿勢に特化した枕

人は一晩に 20〜30 回寝返りを打つとされており、現代の枕はこの動きを前提に形状そのものが進化しています。

横向き寝専用枕

肩幅の分だけ両サイドを高く設計し、首と肩の隙間を埋める構造。

横向き寝時の肩への圧迫を軽減し、頸椎の安定をサポート。

うつ伏せ寝専用枕

呼吸を確保しつつ、胸への負担を軽減する独特の凹凸。

ロング・ボディピロー(抱き枕)

全身をサポートし、腰痛緩和や心理的安心感を与える。

■ パーソナライゼーション:枕難民を救う「個」への対応

「誰にでも合う枕」は存在しないという認識が広まり、一人ひとりの体格や睡眠の悩みに合わせたオーダーメイド枕が一般化しました。

いびき防止機能

いびき音を検知すると枕の高さが自動で調整され、気道を確保することで呼吸をサポート。

睡眠トラッキング

センサーを内蔵し、睡眠時間や深さ、寝返りの回数などをアプリに記録。

自身の睡眠状態を「見える化」することで改善につなげることが可能。

温度制御

水冷・空冷システムにより頭部の温度を調整し、深部体温の低下を促進。

よりスムーズな入眠と質の高い睡眠をサポート。

 

8. 多様化の背景にある現代社会の課題

これほどまでに枕が多様化した背景には、私たちのライフスタイルが大きく変化したことにあります。

■ デジタル疲労

スマートフォンや PC の長時間使用により、首や肩への負担が常態化しました。

その結果、頸椎を日常的にケアするための寝具が不可欠となっています。

■ 睡眠不足社会

慢性的な睡眠不足が社会問題となる中、限られた睡眠時間で最大限の回復を得たいというニーズが高まりました。

その流れの中で、寝具や睡眠環境に積極的に投資する「睡眠経済(スリープテック)」が拡大しています。

■ 衛生意識の向上

アレルギー対策や感染症への意識の高まりから、「洗えること」「清潔を保てること」へのこだわりも枕選びにおける重要な基準のひとつとなっています。

 

9. 自分にとっての「最適」を見つける

このように、時代の流れとともに変遷を遂げてきた枕は、現代だからこそ一人ひとりに合った枕が必要だと認識されるようになったと言えるでしょう。

枕の多様化が進んだことで、画一的な選び方から自分の体型や寝姿勢、体質、そして睡眠の悩みに合わせて「選ぶ」時代へと移行しました。枕は、もはや単なる寝具ではありません。

シェーンベルグでは、これまで多くのお客様からのご相談を受け、一人ひとりに寄り添った枕選びのお手伝いをしてまいりました。

明日を健やかに迎え、日々のパフォーマンスを最大限に発揮するためにも自分に合った枕選びはとても重要です。

どのようなことでもお気軽にご相談ください。

あなたにとっての「最適な枕」を一緒に見つけていきましょう。

≪参考文献≫

日本の枕の歴史とその進化 - まくら先生

枕の博物館

 

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